2004年度 共同研究 「イラク戦争を考える」第2部
慶應義塾大学 経済学部 延近研究会 編著
[目次]
第1章 イラク戦争の泥沼化
はじめに
大規模戦闘終結宣言後も続くイラク国内の混乱。さらには国際社会への波紋。戦闘終結宣言によってイラク戦争は終わりを迎えたのではなく,むしろ複雑化し,泥沼化へと進んでいる。ここでは,共同論文での補章「終わらないイラク戦争」を引き継ぎ,第1節でアメリカ主導によるイラク復興とその破綻,第2章で不安定なイラクの国内情勢,第3節で国際社会への波紋について論じ,イラク再建への動きと今なお続くイラク国内外の治安の悪化を「イラク戦争泥沼化」として実証していく。
第1節 アメリカ主導のイラク復興計画とその破綻
(1) アメリカ単独でのイラク再建計画の誤算
(2) 停滞するイラクの主権回復
(3) アメリカによるイラクの押し付け「民主化」
第2節 イラク国内の治安悪化
(1) イラク戦争関連年表が物語る治安状況の悪化
(2) 反米・反占領攻撃に対する実質的・心情的支援の感情
(3) アメリカ政府のフセイン政権打倒後の処理の準備不足
第3節 対テロ戦争の論理の破綻
(1) イラク戦争と国際的暴力の広がり
@イラク戦争とパレスチナ問題
A拡大する暴力の連鎖
(2) 米国の協力国の対応の変化
@スペイン
Aオランダ
Bその他諸国
*アメリカを中心とした有志連合の崩壊=米英のイラク攻撃自体の無理
第2章 イラク戦争の国際的影響
はじめに
ブッシュ大統領が大規模戦闘終結を宣言したにもかかわらず,依然としてイラク各地で戦闘絶えず泥沼化の様相を呈している。長期化・泥沼化するイラク戦争は国際社会にどのような影響をもたらすのだろうか。歴史的に見ると,アメリカは同様の戦争を経験している。ベトナム戦争である。この章ではイラク戦争の国際社会への影響を考えるための手がかりとして,ベトナム戦争が国際経済・政治に与えた影響を見ていく。
序節 戦後世界における国際政治・経済の枠組み−戦後IMF体制−
(1) 第2次大戦後の資本主義諸国における体制的危機
(2) 資本主義体制保持・発展のための枠組み
@ アメリカの圧倒的金保有を背景としたドルの基軸通貨化
A 固定相場制
(3) 冷戦戦略実行による“ドル散布”
@ アメリカの対外軍事支出と対外援助
A 西欧諸国・日本の復興促進
第1節 戦後IMF体制のメカニズム
(1) “戦後IMF体制”下での資金循環
(2) 西欧諸国・日本の急速な復興・発展
第2節 “戦後IMF体制”下での基本矛盾とその拡大
(1) アメリカ国際収支赤字の恒常化
@ アメリカの国際競争力の低下
A 膨大化する“ドル散布”
B ドルへの信用低下−金の継続的流出−
(2) ケネディ・ジョンソン政権の経済政策
@ ケネディ政権の景気刺激政策とベトナム介入拡大
A ジョンソン政権下の財政支出増大と“ベトナム本格介入”
第3節 ベトナム戦争の経過
(1) 第1次インドシナ戦争
@ フランスのベトナム介入
A フランス敗北
(2) アメリカのベトナム介入
@ ドミノ理論による共産化阻止
A ケネディのベトナム介入拡大方針
(3) アメリカのベトナム本格介入
@ 恒常的北爆と大規模な陸上戦力投入
A 国防費の膨大化
B なぜ,アメリカは大量の兵力を投入し最新鋭の兵器を使ったのに勝てなかったのか
*民族解放を目指すベトナム人民に対する軍事的抑圧の困難性?
(4) ベトナム戦争終結
@ ニクソン大統領のニクソン・ドクトリン(グアム・ドクトリン)
A パリ和平協定
B サイゴン陥落→アメリカのベトナム戦争介入の完全破綻
第4節 “戦後IMF体制”崩壊
(1) インフレーション激化と国際収支危機
@ 財政拡張による総需要拡大と通貨供給量増大
A 景気過熱とインフレーション促進・国際競争力低下
B 貿易収支・国際収支悪化
(2) 戦後IMF体制の崩壊→資本主義における持続的経済成長メカニズムの破綻
@ 貿易収支の赤字転落→ドル還流メカニズムの破綻
A ニクソン新経済政策の発表(ニクソン・ショック)
B 戦後資本主義の安定・発展を支えていたメカニズムの崩壊
第3章 イラク戦争の政治・経済的影響
第1節 アメリカ経済への影響
はじめに
前章で見たように,アメリカ経済は国内的にも国際的にもベトナム戦争によって大きな打撃を受けた。1980年代,レーガン政権は「強いアメリカの再建」を掲げて急速な軍拡とレーガノミクスと呼ばれる諸政策を実行したが,「双子の赤字」=財政赤字と国際収支の赤字はさらに膨大なものとなり,アメリカは世界最大の純債務国に転落した。1991年の湾岸戦争では,国連安保理決議にもとづいて多国籍軍を形成し,軍事行動不参加国からは戦費を徴収するというやり方で軍事行動を取らざるをえなかったアメリカ政府であるが,今回のイラク戦争においては安保理構成国の賛同を得られなくとも,英国などの協力を得ながらもほぼアメリカ単独でイラク攻撃を強行した。この変化の根源には90年代のアメリカ経済の「復活」と,それにともなう「強いアメリカ」思想の「復活」がある。しかしながら序章で見たようにイラク戦争は泥沼化し,現在のアメリカ経済は低迷の一途をたどっている。「復活」は如何にして達成されたものであるのか,そしてその「復活」は弱点をはらんだものでなかったか。以下で考察する。
第1項 アメリカ経済の「復活」
(1) 80年代アメリカ経済の混乱
@ レーガン政権の経済再生計画
A 軍事支出の大幅増額計画
B 「双子の赤字」の深刻化
C 国際通貨ドルの信認低下と国際金融市場の不安定化
(2) 「復活」へ向けての取り組み
@ レーガン政権下の国内産業再生の取り組み
A ブッシュ政権の政策:冷戦終結と湾岸戦争
B クリントン政権のアメリカ経済再生戦略
(3) 90年代アメリカ経済の「復活」
@ 10年に渡る長期持続的好況
A 民間設備投資主導の経済成長
B 「情報通信技術」の台頭
C ニューエコノミー論
D バブル的株価高騰
E 財政均衡化
(4) 「復活」の最中でも悪化を続ける経常収支
@ 90年代好景気の中で貿易収支・経常収支の赤字加速
A 経常収支赤字の外国資金流入超過によるファイナンス
(5) 「復活」の終焉
@ 「ITバブル」崩壊
A 企業・家計の負債
B 過剰生産能力の顕在化
C 連邦財政黒字による大規模減税や需要拡大政策・金融緩和
D 「9・11テロ」・アフガン攻撃・イラク戦争
第2項 アメリカ経済の脆弱性
(1) 財政収支の赤字転落
@ 減税政策と景気後退
A 国防費と社会保障関係費
(2) 経常収支の悪化とドル還流システムの不安定化
@ アメリカ経済の生命線:ドルの基軸通貨としての信頼性
A ユーロの脅威
B 中国経済の台頭
*反ドル体制に対する牽制としてのイラク戦争(?)
(3) 株価変動に見るアメリカ経済の不安定要因
@ ITバブル崩壊
A 9.11同時多発テロ後の株価暴落
B アフガニスタン攻撃後の株価下落
C イラク戦争開戦後の株価下落とエンロン事件
(4) 原油価格高騰とイラク戦争
第2節 アメリカ国内政治への影響
はじめに
2000年大統領選挙での開票の混乱により正当性さえ疑われたブッシュ政権は,9.11テロ以降に急上昇した高い支持率を背景として,対外的にはアフガニスタン戦争,イラク戦争と対テロ戦争を実行していくと同時に,アメリカ国内でも対テロ政策を名目として国民の権利の制限・侵害を実行していく。この節では,共和党の独裁政治にも思えるような体制に至るまでの経緯と,イラク攻撃の大義名分の崩壊による米国内世論の変化,そしてその中で行なわれる2004年の大統領選挙について見ていく。
第1項 9.11テロからイラク戦争におけるアメリカ国内政治の変化
(1) 9.11テロとブッシュの支持率上昇
(2) メディアの動き:客観的報道の消滅
(3) 共和党の「独裁」と単独行動主義
第2項 イラク大規模戦闘終結宣言〜2004年度大統領選挙
(1) 大義名分の崩壊
(2) 2004年度大統領選挙
@ ブッシュ大統領に対抗できる有力候補の不在
A 民主党候補者決定
B 大統領選挙の主要な争点
C 支持率の推移
D アメリカ国内と海外の温度差
E 大統領選挙結果を経て
補章 日米安全保障条約の変質
2001年10月 「4年ごとの国防計画見直し」
→対テロ戦争を重視する戦略への転換の実現
グローバルな対テロ戦争の前方展開基地としての在日米軍基地
成長するアジア(中国・インド等)に対するアメリカの戦略の一環?
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