第4回 公共経済学とは何か
追加情報

ここでは、各回での内容に関連して付け加える情報をお伝えします。

利子所得税

 『経済セミナー』2001年7月号では、紙幅の都合で説明できなかった利子所得税の経済効果について、ここで紹介したい。

貯蓄行動と利子所得
 利子所得税は、貯蓄に対する利子所得に課税される租税である。利子所得税の課税の効果を考えるには貯蓄を考慮しなければならず、貯蓄は将来消費するために充てられるから、現在の消費と将来の消費を考えなければならない。
 そこで現在の消費と将来の消費を考える。いま、ある家計は現在のみ働いてWだけ所得を得たとする(ここでは労働時間が非弾力的でWは一定であるとする)。将来は引退して働かないため労働による所得はないものとする。このとき、この家計は現在消費と将来消費をどれだけにするかを決める。そこで、現在消費量をx1、将来消費量をx2とする。現在Wの所得を得て、それを現在消費にx1だけ充て、残りは貯蓄して将来消費に充てることとなる。貯蓄をsと表してこの関係を表すと、
    Wx1+s               (5)
となる。将来時点において、労働による所得はないがsだけの貯蓄がある。しかも、その貯蓄には利子率r(×100%)で利子所得が生じるとすると、将来時点では貯蓄と利子所得を合わせて(1+r)sだけの収入があり、これを将来消費に充てる。注A1 したがって、この関係を表すと、
    (1+r)sx2             (6)
となる。(5)式と(6)式を合わせると、この家計の生涯を通じた予算制約式は、
          x2

    Wx1+──             (7)
         1+r
となる。この式を図示したのが図A4−1の直線WW'である。この直線の傾きの絶対値は1+rである。

図A4−1

 また、この家計は現在消費と将来消費から効用を得るとする。家計の効用は現在、将来の消費量が多いほど高くなるとする。このとき、効用関数は一般的に
    UU(x1, x2)
となる。ただし、現在消費、将来消費とも上級財であるとする。この効用関数から無差別曲線を導き出して図A4−1に示すと、点Eが効用最大化点となる。

利子所得税
 次に、政府が利子所得税を課税することを考える。利子所得税率をt(×100%)とする。このとき、利子所得に対する課税額Tは、
    Ttrs
である。労働による所得には課税されない。したがって、現在消費についての(5)式は課税後も変わらない。しかし、利子所得がある(6)式は、課税後には次のようになる。
    x2=(1+r)sT={1+(1−t)r}s
この式と(5)式から、課税後の家計の生涯を通じた予算制約式は、次のようになる。
           x2

    Wx1+────
         1+(1−t)r
この式を図示したのが図A4−1の直線WW"である。この直線の傾きの絶対値は1+(1−t)rである。
 このように、利子所得税を課税すると予算制約式の傾きは緩やかになるから、予算制約式が点Wを中心として左下に回転する。図A4−1では、課税前と課税後の効用最大化点を比べている。図A4−1上で、点Eは課税前の効用最大化点であり、点E'は課税後の効用最大化点である。
 利子所得税を課税したときも、前述と同様に課税による所得効果と代替効果が生じる。ここでの所得効果は、利子所得税が課税された分だけ可処分所得が減少したため、将来消費のみならず現在消費も減らそうとする効果である。代替効果は、貯蓄の課税後収益率(利子率)が課税によってrから(1−t)rに低下し、貯蓄と利子所得を充てる将来消費がそれだけ割高になるから、貯蓄する意欲を失って貯蓄を減らして将来消費を減らし、現在消費を増やす効果である。利子所得税も代替効果が生じるから、中立的(効率的)でない歪みがある租税である。課税後の効用最大化点E'は、所得効果の方が上回る場合には図A4−1のように点Eの左下にくるが、代替効果が上回る場合には点E'は点Eの右下にくる(現在消費x1が増加する)。

利子所得税の超過負担
 利子所得税は、代替効果が生じるから超過負担が生じ、効率性の観点から望ましくない。それでは、利子所得税によってどれだけ超過負担が生じるだろうか。これは、連載第4回第1節の労働所得税と同様に分析できる。
 政府が利子所得税と同額の税収を一括固定税(人頭税)によって徴収できたとする。このとき、図A4−1において課税後の効用最大化点E'と同じ効用水準を得るように一括固定税を課税すれば、課税額がどれだけ変化するかを確認する。
 利子所得税は課税せず、現在の所得に一括固定税をvだけ徴収すると、予算制約式は
            x2

    Wvx1+──           (7')
           1+r
と表される。これは、一括固定税課税前の予算制約式(7)をvだけ下に平行移動させることを意味している。そこで、点E'と同じ効用水準を得るように一括固定税を徴収する場合を考える。このときの予算制約式(7')を図A4−1上で表すと、点E'と同じ効用水準を得る無差別曲線と接するようにvを設定した直線として表せる。このとき、一括固定税収vは線分IJの大きさだけ得られている。すなわち、同じ効用水準を得るように課税するときに、利子所得税では線分E'Iしか得られないが、一括固定税では線分IJだけ税収が得られる。このことから、課税の仕方が異なるだけで、得られたはずの税収が失われたと考えられ、この失われた税収の大きさが、ここでの超過負担と定義できる。すなわち、線分E'Jが超過負担の大きさである。別の言い方をすれば、同じ効用を得るとき、一括固定税の方が利子所得税よりも、税収が多くなるという意味で望ましい。


脚注
A1) 生涯で得た所得は全て消費し、遺産を残さないとする。


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