対テロ戦争の政治経済学

― 終わらない戦争は何をもたらしたのか ―

延 近  充

明石書店,2018年3月刊,定価2,800円(税別)

 
2018年3月12日,本書の構成を掲載
3月19日,表紙カバーの画像を掲載
12月25日,訂正のお知らせ
2001年,ブッシュ大統領が開始を宣言した対テロ戦争は,アフガニスタンのタリバン政権とイラクのフセイン政権を崩壊させた。しかし,アフガニスタンでもイラクでもその後,反政府・反外国軍武装勢力が勢力を拡大し,政府軍や外国軍への武力攻撃が多発するようになり,非国家勢力に対する現地政府とアメリカを中心とする外国軍の「対テロ戦争」が始まり,長期化・泥沼化した。
この「対テロ戦争」は中東地域やアフリカ諸国にも拡大しただけでなく,さらにイスラム過激主義に影響を受けたとみられるテロが欧米諸国でも頻発し,「戦場」はグローバルに拡大していった。
アメリカにとってベトナム戦争を超える「もっとも長い戦争」となっているのである。

この戦争にともなって,米軍・多国籍軍の兵士が多数犠牲となっているのはもちろん,それをはるかに上回る非戦闘員・民間人が死傷している。(アフガニスタンとイラクにおける兵士や民間人死者数は,アフガニスタン戦争における犠牲者数イラク戦争における犠牲者数,をご覧ください)

世界最強のアメリカの軍事力をもってしても,なぜ「対テロ戦争」は終わらないのか?
そもそも,なぜアメリカはこの戦争を強行したのか?

安倍晋三政権の提唱する「積極的平和主義」のスローガンのもと,日米安保体制の強化に突き進む日本も,この戦争と無関係ではありえない。
日本と,そして世界の安全保障のために我々が進むべき道は?

アメリカ経済と日米経済関係を,国際政治や軍事面を包括して長年研究してきた著者が,対テロ戦争を政治経済学の視角から分析し,これらの疑問に答える!

本書の構成

はじめに― 本書の課題と分析視角

第1章 アフガニスタンにおける「対テロ戦争」

第1節 アメリカ主導のアフガニスタン攻撃
 9.11同時多発テロとアフガニスタン攻撃の論理
 アフガニスタン攻撃とタリバン政権の崩壊

第2節 アフガニスタンにおける「対テロ戦争」の開始と長期化
 タリバンの勢力拡大と治安の悪化
 「対テロ戦争」の開始
 「対テロ戦争」の本格化

第3節 アフガニスタンにおける「対テロ戦争」の泥沼化
 「対テロ戦争」におけるオバマ・イニシアティブの意味
 米軍増派と「対テロ戦争」の泥沼化
 アフガニスタンにおける「対テロ戦争」からの出口戦略
 米軍・ISAFの撤退による「対テロ戦争」の深刻化
 イスラム国のアフガニスタンへの侵入
 トランプ政権の「対テロ戦争」政策

第2章 ブッシュ政権のイラク攻撃戦略

第1節 ブッシュ政権のイラク攻撃の大義名分
 2002年の一般教書演説―イラクを「対テロ戦争」の標的に
 イラクの核開発疑惑の強調
 イラクの核開発疑惑の根拠の信憑性
 2003年の一般教書演説―イラク攻撃の大義名分

第2節 イラク攻撃の是非についての国連安保理での議論
 米英とその他の理事国との対立
 ブッシュ政権のイラク再建計画案
 対イラク武力行使容認決議案提出から攻撃開始へ

第3節 イラク攻撃によるフセイン政権の崩壊とイラク攻撃の大義名分の帰趨
 イラク攻撃の開始
 イラク攻撃の大義名分の帰趨

第3章 アメリカの「繁栄」の命綱としての基軸通貨特権

第1節 IMF=ドル体制とドルの基軸通貨特権
 IMF=ドル体制の特徴
 アメリカ経済の相対的衰退とIMF=ドル体制の変容

第2節 ドルの基軸通貨特権と「危うい循環」
 レーガン政策と「危うい循環」の形成
 1990年代のアメリカ経済の「復活」
 イラク攻撃による基軸通貨特権の死守
 2008年秋以降の金融・経済危機と「対テロ戦争」

第3節 アメリカの恒常的軍拡体制
 1950年代のアメリカの冷戦戦略と恒常的軍拡体制の成立
 米ソの軍拡競争をもたらした抑止力の論理
 1960年代の柔軟反応戦略とベトナム戦争
 レーガン政権期の冷戦・軍事戦略
 冷戦終結後の国家安全保障戦略

第4章 イラクにおける「対テロ戦争」

第1節 「対テロ戦争」の開始と長期化・泥沼化
 アメリカの占領政策と「対テロ戦争」の開始
 「対テロ戦争」の本格化

第2節「対テロ戦争」の長期化・泥沼化の諸要因
 「テロ」事件の多様性-5-
 イラクの「民主化」プロセスの難航

第3節 米軍・有志連合国軍のイラクからの撤退
 ブッシュ政権の出口戦略
 オバマ政権による米軍撤退の実行

第5章 イラクにおける「対テロ戦争」の新たな展開

第1節 マリキ政権のスンニ派敵視政策
 マリキ政権の独裁的体制と反政府運動の高揚
 マリキ政権の強硬姿勢と内戦再発の危機

第2節 「イスラム国(IS)」の台頭
 反マリキ政権運動の武力弾圧とISILの勢力拡大
 疑似国家としてのISの勢力拡大の理由
 「対テロ戦争」のグローバル化

第3節 対IS軍事作戦
 マリキ政権の対スンニ派無差別的軍事攻撃と政権交代
 対IS軍事作戦の本格化と「対テロ戦争」の新展開
 ISの支配地域縮小と戦略転換
 有志連合国内でのISによるテロの頻発
 ISとの「対テロ戦争」における軍事作戦の性格

第6章 終わらない「対テロ戦争」


第1節 適切な戦後計画の欠落と場当たり的な占領政策
 適切な戦後計画の欠落が「対テロ戦争」に着火した
 戦後計画を欠いたままイラク攻撃を強行したのはなぜか?
 場当たり的なイラク占領政策と性急な出口戦略
 「テロ」への軍事力による対応が「対テロ戦争」を泥沼化させた

第2節 「対テロ戦争」における「国家の軍事力」の限界
 「対テロ戦争」における「敵」概念の曖昧性
 「対テロ戦争」は軍事力では勝利できない
 武装勢力が民衆の協力と支援を得られる理由

第3節「対テロ戦争」の通奏低音としてのパレスチナ問題
 イスラエルの建国と第1次中東戦争
 第2次中東戦争と米ソの影響力の増大
 第3次中東戦争によるイスラエルの占領地域の拡大
 第4次中東戦争後のエジプトの親米・イスラエル容認路線への転換
 第1次インティファーダとオスロ合意
 第2次インティファーダとイスラエルの「パレスチナ分離計画」
 「天井のない監獄」とされたガザ地区
 パレスチナ問題に対するオバマ・イニシアティブ

第7章「対テロ戦争」と日本

第1節 日本の再軍備の開始と日米安保体制の成立
 日本国憲法の平和主義の原則
 再軍備の開始と憲法解釈の変更
 自衛隊創設・軍事力増強を可能にするための憲法解釈
 軍事力増強の「制約」のための憲法解釈

第2節 アメリカの国家安全保障戦略の補完としての日米安保体制の強化・拡大
 1980年代の日米共同軍事体制の強化
 冷戦終結と日米安保体制の変質
 「対テロ戦争」と日米安保体制の拡大
 安倍政権の集団的自衛権の行使容認の危険性
 日本が進むべき道とは?

あとがき
【誤植・訂正のお知らせ】
本書中に誤植や誤り・不正確な表現がありましたので下記のように訂正いたします。恐縮ですが,すでにご購入の方は訂正をお願いいたします。
ページ 場所
20 第2段落2行目 フセイン政権軍の残党 フセイン政権軍の残存勢力
29 アフガニスタンの
州区分の地図の北部
ダイクンディ サマンガン
43 第1段落3行目 頻発しだけでなく 頻発しだけでなく
88 1行目 述の 述の
150 第2段落6〜7行目 治安維持のために 削除
152 第3段落2行目 A国の攻撃能力を B国の攻撃能力を
216 2行目 下記のように 以下のように
245 第2段落5行目 「憲法草案要綱」参照して 「憲法草案要綱」参照して
258 第3段落3行目 民間人が死傷する事件 民間人が死傷する事件,
258 第3段落5行目 武装勢力10人を 武装勢力10人を
268 左から3行目 国連憲章違反を非難し軍の撤退を 国連憲章違反を非難し軍の撤退を

この「対テロ戦争の政治経済学」の著作権は慶應義塾大学 経済学部 延近 充が所有します。
無断で複製または転載することを禁じます。

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