21世紀のマルクス経済学
― 現代の経済危機をマルクス経済学はどう見るか ―
慶應義塾大学出版会,2015年4月刊,定価2,800円(税別)
延 近 充
2015年3月28日,本書の構成と「序」を公開
4月2日,表紙カバーの画像を掲載
2008年9月のリーマン・ショック以降,世界的な金融・経済危機が長期化するなか,現代社会は,経済だけでなく人々の意識さえも将来を展望するのが困難な閉塞的な状況に陥っている。
本書は,現代資本主義の抱える諸問題を分析するためのマルクス経済学の基礎理論を解説し,その理論を分析ツールとして,膨大な資本のグローバルな運動によって規定される資本主義世界体制の危機の構造と,1990年代以降の日本経済の構造的変化を明らかにする。
本書は,大学の経済学部の学生や現代経済の諸問題に関心をもつ一般の読者が,マルクス経済学を学ぶためのテキストを提供することも目的の1つとしている。そこで本論の内容に即して適宜Columnを設けて,マルクス経済学が現代経済の諸問題を理解するうえでどのような意味をもつのかを,読者が把握する一助となるようなトピックを取り上げて解説した。特に第3部のColumnでは,経済問題に限らず,現代社会が抱える諸問題を考えるうえで必要な視点なども取り上げている。これらのトピックや視点は,学生が自分の専門研究テーマや卒業論文のテーマを選ぶ際にもヒントになるはずである。
本書の構成は以下の通りで,あとがき,索引を含めて360ページ(A5版)です。
「序― 本書の課題と分析視角」は,pdfファイルで閲覧可能です(ただし,初校段階の原稿のため,完成版では一部の表現が異なります)。なお,著作権保護のために,内容の印刷は可能ですが,文章のコピーはできないようにセキュリティが設定してあります。
本書の構成
序― 本書の課題と分析視角
序章 マルクス経済学の視角と方法
第1節 マルクス経済学の視角
第2節 マルクス経済学の方法
第1部 資本主義経済の一般的運動法則
第1章 商品と貨幣
第1節 商品の2要因−使用価値と価値
第2節 貨幣の諸機能
第2章 剰余価値の生産
第1節 資本主義的生産過程と剰余価値の本質
第2節 資本主義の発展と剰余価値の増大
第3節 剰余価値生産の増大のための生産力の発展と資本・賃労働関係
第4節 剰余価値の本質を隠蔽する諸要因
第3章 資本の蓄積過程
第1節 資本主義的再生産と資本関係の再生産
第2節 資本蓄積と生産力向上との相互促進的進展
第3節 資本蓄積の進展と労働者階級の状態
第4章 資本の流通過程
第1節 資本の循環と回転
第2節 社会的総資本の再生産と流通@―単純再生産
第3節 社会的総資本の再生産と流通A―拡大再生産
第5章 競争段階の景気循環と市場構造の変化
第1節 競争段階の景気循環
第2節 市場構造の変化と独占段階への移行
第2部 独占資本主義段階の理論
第6章 独占的市場構造と独占価格・独占利潤
第1節 独占的市場構造の特徴
第2節 協調による市場支配と独占価格の設定
第3節 独占利潤の実体と源泉
第7章 独占企業の投資行動
第1節 新生産方法が存在しない場合の独占企業の設備投資行動
第2節 新生産方法が存在する場合の独占企業の投資行動
第8章 独占段階における景気循環の変容
第1節 停滞基調
第2節 新生産部門の形成と対外膨張による急速な拡大再生産の現実化
第3部 現代資本主義の危機の構造
第9章 戦後資本主義世界体制の特徴
第1節 アメリカの恒常的軍拡体制
第2節 初期IMF=ドル体制の機能と冷戦戦略の実行
第10章 戦後資本主義世界体制の危機の構造
第1節 レーガン政策と「危うい循環」の形成
第2節 アメリカ経済の「復活」と「危うい循環」の深化
第3節 投機的金融取引の盛行と世界的金融・経済危機
第11章 1990年代以降の日本経済の構造的危機
第1節 アベノミクスの理論的支柱― リフレ派の主張
第2節 リフレ派に対する批判T― 「生産年齢人口減少説」
第3節 リフレ派に対する批判U― 「成熟社会化=貨幣選好強化説」
第4節 リフレ派に対する批判V― 複合要因説
第5節 日本経済の構造的危機の基本的性格
あとがき
索引
Column 一覧
2-1 労働力商品の価値と現実の賃金水準との関係は?
2-2 賃金コストの引き下げが労働者階級の再生産を困難にしている
2-3 労働力商品の価値と現実の賃金格差との関係は?
2-4 ジャスト・イン・タイム方式の経済学的意味とは?
2-5 日本の農業問題を考えるためのヒント
2-6 工場の機械化と人間の役割の変化
2-7 資本の支配下に入らずに生活していける?
2-8 「合理化」がもたらすもの
2-9 「多様な働き方を実現する」という賃金制度の本質とは?
2-10 株式や土地の理論価格と現実の価格がかけ離れている理由は?
3-1 戦後の日本の就業構造は劇的に変化した
3-2 相対的過剰人口って失業者のこと?
3-3 日本の少子化問題を考えるヒント
3-4 資本主義における生産力の発展のあり方から福島第一原発の事故を考える
4-1 日本の高度成長期とアメリカの1990年代の経済成長の違いは?
5-1 財政政策や輸出で不況から脱出できたとしても・・・・・・
6-1 独占価格が設定されると価格は必ず上がる?
6-2 独占部門への参入の成功例― ホンダとサントリー
6-3 独占企業と中小企業の関係
6-4 大企業の賃金はなぜ高い?
7-1 軍事技術と民生・産業用技術との関係
7-2 軍事技術から生まれた原発の技術
7-3 日米の鉄鋼業の生産性上昇率の格差の原因
8-1 独占段階の経済成長には新生産部門や対外膨張が必要
8-2 独占資本が開発する新技術の性格
8-3 ダンピング輸出が行なわれる理由
9-1 日本の再軍備過程と日本国憲法の解釈の変更
10-1 湾岸戦争とアメリカの国家安全保障の脆弱化
10-2 日本政府の「湾岸戦争のトラウマ」
10-3 日本の自動車輸出自主規制のカルテル効果
10-4 冷戦とインターネットの登場
10-5 冷戦の終結とアメリカ軍需産業の再編
10-6 株価の高騰による利益はフィクション
10-7 サブプライム・ローン増大による景気回復は破綻する運命だった
10-8 アメリカがイラク攻撃を強行した理由
この「21世紀のマルクス経済学」の著作権は慶應義塾大学 経済学部 延近 充が所有します。無断で複製または転載することを禁じます。
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