点字は横書きで左から右へと凸面を読む。点字の一つの単位である一マスは、縦3点が2列並んだ6点から構成される。この点の位置は、前のマスに近い側の上から、(1)の点、(2)の点、(3)の点と呼ばれ、うしろのマスに近い側の上から(4)の点、(5)の点、(6)の点と呼ばれる。
日本の点字では、ひらがなとカタカナの区別をしていない。また、漢字も用いていない。そこで一種類の「仮名文字」と算用数字、それにアルファベットを覚えてしまえば、新聞や雑誌はもとよりのこと、一般の図書も読むことができる。さらに点字を読むことができる人に、手紙や原稿を書き送ることもできる。今回は手始めに日本語の母音である「ア」「イ」「ウ」「エ」「オ」を取り上げる。
母音は、(1)の点、(2)の点、(4)の点の3つの点の組み合わせで書き表わす。言い換えれば、凸面(おもて)の左上の三角のなかに構成されている。これを基本として右下の三角形のなかの点(3)(5)(6)で表わされる子音と組み合わせて、50音が構成されるのである。
「ア」は(1)の点、「イ」は(1)の点と(2)の点の組み合わせ、「ウ」は(1)と(4)の点、「エ」は(1)(2)(4)の点、「オ」は(2)(4)の点からなっている。
点字のおもて(凸面)の左上の三角形の位置にある点の組み合わせが母音を表わし、右下の三角形の位置にある点の組み合わせが子音を表わす。そこで、先月おぼえた「アイウエオ」に、(6)の点を加えるとカ行、(5)(6)の点を加えるとサ行、(3)(5)の点を加えるとタ行、(3)の点を加えるとナ行となる。また、(3)(6)の点を加えるとハ行、(3)(5)(6)の点を加えるとマ行、(5)の点を加えるとラ行となる。このように、点字がなでは、ひらがなやカタカナと異なって、母音と子音の部分を区別できるが、ヤ行とワ行は例外である。ワ行は、ア行と同じ形を一番下の位置に下げて表わし、ヤ行は、このワ行に(4)の点を加えて表わす。
「アイウエオ」をおぼえたのち、それに加える点の位置をおぼえるために、次のような呪文を唱えるとよい。
先月学んだ清音(いわゆる50音)に、濁点の(5)の点を前置して濁音を表わす。ひらがなやカタカナでは、濁点を清音の右肩に添えるので、横書きにすると後ろ上に位置することになる。ところが、点字は指先に触れた順序で1つずつ読み取っていくので、濁点を後置すると、先に読み取った清音を濁音に訂正し直さなければならなくなる。たとえば、「カ」と読み取った後、濁点がくると、「ガ」と訂正しなければならないのである。
そこで、濁点を清音の1つ前のマスに前置しておくと、まず濁点を読み取って、次が濁音であることを予測し、「カ」が出てくれば、それを「ガ」と読み取ればよいのである。
その点は、半濁音の場合も同じであるから、ハ行の清音の1つ前のマスに、半濁点の(6)の点を前置して半濁音を表わすのである。
濁音や半濁音を含んだ語の書き表わし方は、ひらがなやカタカナの場合とまったく同じである。そこで、「ヂ」と「ヅ」は、連呼と連濁のときしか用いないことになる。連呼とは、繰り返された同音が濁ることで、連濁とは、結合された二語の語頭が濁ることである。
撥音(はねる音)は、撥音符の(3)(5)(6)の点で表わす。これはひらがなの「ん」や、カタカナの「ン」に対応しており、その用法もまったく同じである。
促音(つまる音)は、促音符の(2)の点で表わす。これはひらがなの小文字の「っ」や、カタカナの小文字の「ッ」と対応しており、その用法もまったく同じである。ただ、促音にするかどうかの判断に迷うことがあるので、辞書で確かめ、それでも迷う場合は、促音を用いないほうが無難である。
長音(のびる音)は、長音符の(2)(5)の点で表わす。これはカタカナの「−」と対応しており、その用法はまったく同じである。しかしながら、ひらがなや漢字で書き表わされる和語や漢語の長音の場合は、少し異なっている。つまり、「現代仮名づかい」で、「う」を添えて表わすウ列とオ列の長音には、長音符を用いて表わすのが点字の仮名づかいである。たとえば、「クーキ」(空気)・「スーガク」(数学)・「ソードー」(騒動)・「ホーノー」(奉納)などと、長音符を用いて表わすのである。
拗音は、主となる子音とヤ行の子音および母音の3つの要素から成り立っている。平仮名や片仮名では、主となる音を、キ・シ・チ・ニ・ヒ・ミ・リと、イ列の仮名で表わし、ヤ行の子音と母音とを合わせて、ャ・ュ・ョと、ヤ行の小文字で表わしている。
これに対して点字では、主となる子音と母音とを組み合わせた清音(ア列・ウ列・オ列の清音)に、ヤ行の子音を表わす拗音点((4)の点)を前置して2マスで表わしている。
このことは、ローマ字のKYAの順序をかえて、YKAとし、Yを(4)の点に置き換え、KAをカに置き換えたと思えば、よくわかる。
主となる子音が濁る場合には、拗音点に濁点を加えた拗濁点((4)(5)の点)か、半濁点を加えた拗半濁点((4)(6)の点)を前置して、2マスで表わしている。
なお、ヂャ・ヂュ・ヂョは、2語の連濁のときにしか用いられることはない。
普通、片仮名で書き表わされている外来語や外国の地名・人名などを、点字で書き表わす場合には、先月まで学んだ文字に加えて、特殊音(外来音)点字も用いる。
表からもわかるように、片仮名ではイ列かエ列の仮名にア行の小文字を添えて表わす特殊音は、点字では拗音点と同じ(4)の点を前置して、発音の近い清音と組み合わせて2マスで表わす。片仮名では小文字の「ュ」を添える「デュ」の場合には、(4)(6)の点を前置する。また、片仮名ではウ列かオ列の仮名にア行の小文字を添える特殊音は、点字では、(2)(6)の点を前置し、発音の近い清音と組み合わせて2マスで表わす。これらが濁る場合には、濁点の(5)の点を付け加えた前置点を用いる。「ヴ」は、小文字を含まない特殊音であるから、片仮名と同様に、濁点と「ウ」で表わす。
最近、外来語や外国の地名・人名が片仮名で書き表わされることが多くなってきた。外来語の仮名づかいについては、国語審議会が本年3月1日にそのよりどころの案を示したが、点字でも、外来語の書き表わし方は、片仮名の場合とまったく同じである。
前回までに点字仮名のすべてを紹介したので、今回はその総復習を兼ねながら、仮名づかいと分かち書きの原則を取り上げる。
日本語を主として平仮名で書き表わすときのよりどころについては、国語審議会が1986年に示している。点字の仮名づかいはこれとほぼ同様であるが、次の2点だけが異なっている。
相違点の第1は、助詞の「は」・「へ」を発音どおりに「ワ」・「エ」と言い表わすことである。たとえば、「デワ□キョーワ□ワタクシワ□ビョーインエ□イキマス」などと書き表わす(□は1マスあけることを示している)。
相違点の第2は、ウ列とオ列の長音は、「ウ」ではなく、長音符を添えて書き表わすことである。すなわち、「ウー・クー・スー・ツー・ヌー・フー・ムー・ユー・ルー・グー・ズー・ヅー・ブー・プー・キュー・シュー・チュー・ニュー・ヒュー・ミュー・リュー・ギュー・ジュー・ヅュー・ビュー・ピュー」、「オー・コー・ソー・トー・ノー・ホー・モー・ヨー・ロー・ゴー・ゾー・ドー・ボー・ポー・キョー・ショー・チョー・ニョー・ヒョー・ミョー・リョー・ギョー・ジョー・ヂョー・ビョー・ピョー」と、外来語の片仮名表記と同様に書き表わす。
なお、外来語の点字仮名づかいについては、本年3月国語審議会が示した主として片仮名で書き表わされる外来語表記のよりどころとまったく同じである。
仮名文字体系の点字は表音文字であるから、語の区切り目を明確に示すために、分かち書きをする必要がある。
点字分かち書きの第1の原則は、「自立語は前を区切り、助詞や助動詞は前に続ける」という文節分かち書きである。どこで分かち書きすればよいかを判断する簡単な目安として、「ボク[ネ]キノー[ネ]ナイターヲ[ネ]ミニ[ネ]イッタ」などと、間投助詞の「ネ」を入れても意味が変わらない場所で、「ネ」の代わりに1マスあければよいのである。
しかしながら、1つの文節を構成する自立語が、長い複合語の場合には、区切り目と区切り目の間が長すぎて読み取りにくい。そこで、第2の原則として、「長い複合語や固有名詞などで、自立可能な意味の成分が2つ以上ある場合には、その語の構成要素ごとに区切り、「1マスずつあける」ことになっている。たとえば、「トーキョー□ダイガク□フゾク□ビョーイン□ガンカ□ビョートー」などのように書き表わすのである。
なお、文の終わりには、句点((2)(5)(6)の点)を添え、そのうしろを2マスあけることになっている。
点字は、6つの点の組み合わせだから63通りしか記号を作れない。そこで、数字やアルファベットなどは、それぞれの前置点と組み合わせで、同形の点字仮名と区別している。
数字は、それを表わす前置点の数符に続けて、「ア・イ・ウ・ル・ラ・エ・レ・リ・オ・ロ」と書くと、「1・2・3・4・5・6・7・8・9・0」となる。これを算用数字と同じく続けて、「1990」と書くと、「セン・ヒャク・ジュー・イチ」の位を表わす。
ひとまとまりの数には、数符は一つしか前置しない。1〜0の数字の他に、小数点((2)の点)、位取り点とアポストロフィー(両者とも(3)の点)だけは、数符のあとに互いに数字体系として続けて書き表わす。この他の点字仮名や記号およびマスあけなどが続けば、数符の効力はなくなる。ところが、「ア・イ・ウ・エ・オ、ラ・リ・ル・レ・ロ」の仮名は数字と同形であるから、間につなぎ符((3)、(6)の点)をはさんで、数字と仮名の境目を明確にする。また一語中で、仮名に数字が継く場合には、境目が数符で区別できるから続けて書き表わす。
重ね数字は、別の数字であるから、数符を再び用い、中点を省いて続けて書き表わす。分数は、分母から先に書き、ひとマスあけて分子を書き表わす。大きな数は、4桁までは算用数字と同じく位取り記数法で書き、「マン・オク・チョー」などの位は仮名で書き表わす。
なお、「ヒトツ・フタツ・ミッツ・ヨッツ・・・」などと読むやまと数字は、発音するとおりに仮名で書き表わす。また、「イチ・ニ・サン・シ・・・」などと漢字音で読む数字についても、数量や順序の意味が薄れた慣用句や固有名詞などは、「イッパンテキ・ユイイツ・シコク・キューシュー」などと、数字を用いずに仮名で書き表わす。
同形の仮名文字と区別するために、数字には数符を前置したが、アルファベットには外字符を前置する。大文字がひとつの場合には、その文字の直前に大文字符を前置する。一語のすべてが大文字の場合には、外字符のあとに二重大文字符を添えてから文字を続ける。ただ、略称などで大文字と小文字の違いを特に区別する必要がない場合には、大文字符や二重大文字符を省略してもよい。
一語中で、数字とアルファベットが続いて用いられている場合には、数字のあとに外字符を続けて書き表わす。また一語中で、アルファベットのあとに数字が続く場合も、アルファベットのあとに数符を続けて書き表わす。
一語中で、アルファベットのあとに仮名文字がくる場合には、つなぎ符をはさんだのち仮名文字を続けて書き表わす。もし、つなぎ符をはさまずに仮名文字を続けると、その仮名文字は同形のアルファベットとして読まれてしまうからである。そのため、一語中でアルファベットのあとに仮名文字がくれば、たとえそれが濁音や拗音などであっても、つなぎ符をはさんでアルファベットが終わったことを表わす必要がある。
逆に、一語中で、仮名文字のあとにアルファベットがくる場合には、外字符によって、仮名文字が終わりアルファベットに変わったことが表わされているので、これらを続けてよいのである。
前号の数字と仮名文字との関係をあわせて、一語中の仮名文字、数字、アルファベットの相互関係をまとめてみよう。まず、一語中では、数字とアルファベットは互いに続けあう。また、一語中で、仮名文字と数字、および仮名文字とアルファベットは互いに続ける。
これに対して、一語中で、仮名文字が数字やアルファベットのあとに続く場合には注意を要する。アルファベットのあとに仮名文字がくる場合には、すべてつなぎ符をはさむのに対して、数字のあとでは、「ア・イ・ウ・エ・オ」と「ラ・リ・ル・レ・ロ」がくる場合にだけつなぎ符をはさみ、その他は直接続けて書き表わすのである。
なお、一語中のアルファベットが文字や略称の場合には、外字符を前置して書き表わす。これに対して、日本語の文中にアルファベットで書き表わされている外国の語句や文を表わす場合には、外国語引用符で前後をくくって書き表わす。外国語引用符のなかは、その外国語の表記法に従い、外字符を用いることはない。また、日本語のローマ字表現も、外国の語句や文と同様に、外国語引用符ではさんで書き表わす。
日本語を点字で書き表わす場合、点字仮名と算用数字やアルファベットを用いることはすでに述べた。そのほかに、これらを助けるものとして、句読点やカッコなどの表記符号がある。表記符号は数が多く、その用法もかなり複雑である。ここでは、おもな表記符号をとりあげ、点字の文章を読むことができるようになる程度に説明する。
表記符号は、その前後ろの部分との接続やマスあけが大切なので、一覧表では、接続を*で、1マスあけを□で、2マスあけを□□で表わしている。
句読符のうち、文末のくぎりを表わす句点、疑問符、感嘆符は前に続け、後ろは2マスあける。ただ、項目番号などの後ろに続くピリオドは、句点と同形だが1マスあけでよい。読点と中点は前に続け、後ろは1マスあける。
囲みの符号は、内側は続け、外側は分かち書きの規則に従う。ただ、段落挿入符は、内側の1マスあけを含んだ記号と考えればよい。第1カギと第2カギは、どちらを使ってもよいが、コンピュータ点訳では第2カギが使われている。ふたえカギは、カギのなかにくるカギである。指示符類のうち、試験問題などでよく目立つ第3指示符が使われている。第1カッコは丸カッコに、第2カッコはその他のカッコに対応することが多い。二重カッコはカッコのなかにくるカッコである。点訳者挿入符は、仮名ではわかりにくい同音異義語などに付ける点訳者注のためのカッコである。また、段落挿入符は、前文や要約文、あるいは脚本のト書きなどに用いる。
関係符号は、一般の印刷物などとほぼ同じ場面で使われるが、星印は行頭だけに用い、その他の場所では文中注記符などが使われている。また、文中注記符のなかに数字を割り込ませて、注の番号を表わすこともある。
(「点字・手話入門 点字編」臨牀看護、へるす出版 1990年1月号〜12月号)
出典:「教師教育教材 特殊教育 −点字で学ぶ−」、pp.8-18、1991年3月.