要旨:中途失明者はもとより、先天盲児であっても、点字の触読能力を高めるために、かなりの困難を感じている。そのために、点字触読能力に優れた読み手の触読過程を明らかにし、点字入門期における効果的な指導法を開発することを主たる目的として研究を行った。
30名の点字常用者を被験者として、1マスの点字63字形と、2マスの点字125字形をひとつずつ提示して、それを読み取るときの点字の印象を報告させた。報告に現れた印象を点の結合に仕方によってカテゴリー化し、その反応カテゴリーと文章や文字の速読みテストの結果、触2点弁別閾、触読年齢、生活年数、および失明年数などとの関連を統計的に明らかにし、それを分析して次のような結果を得た。
(1)1マス点字のうち個人的要因によって反応が別れる字形の場合、触読年数が長くかつ速い読み手は、左右の半マスずつに分離し、逆に触読年数が短く遅い読み手は、1マスをひとつの図形として一体化する傾向がある。
(2)2マスの点字においても、触読年数が長くかつ速い読み手は、1マス目と2マス目を分離し、触読年数が短くかつ遅い読み手は、2マスをひとつの図形として一体化する傾向がある。
1マスと2マスのいずれの場合でも、字形を分離し、前半を読み取った段階で候補文字を限定することによって処理時間を短縮するというような触読過程が想定される。そこで、そのような点字触読の方略を学習させる指導体系を確立する必要がある。
見出し語:盲児(者)、点字、触読、触覚パターン認識、点字指導
盲学校に転入学してくる中途失明者の多くが、点字の書き方の学習には比較的容易に取り組めても、点字触読の学習に相当な困難を感じている。先天盲児や、幼児期に失明した盲児の場合でも、点字触読の能力を高めるために多くの年月を要している。その原因のひとつとして、点字入門期の指導法に何らかの問題が潜んでいることも考えられる。そのため、触読能力に優れた読み手の点字触読の過程を明らかにし、彼らが用いる方略を初心者に習得させることによって、点字入門期の指導の効果を上げることが必要になってくる。
一方、最近の点字ワードプロセッサの活用と関連して、点字で表された漢字の導入が新たな課題となってきている。この場合、漢字の部首や音訓あるいは意味などの言語学的な情報を、どのような方式で点字に表すかがひとつの問題となる。それと同様に従来仮名文字体系の点字として処理してきた触読の過程に、これらの点字の漢字をどのように位置づけるかが、さらに大きな問題となる。とくに、他の記号と区別して、それが漢字であることを表す符号の位置をどこにしたら、触読の効率を落とさずに、漢字の意味を付加することができるのかという問題を明らかにしておく必要がある。
そこで、点字パターン認識を規定する諸要因を検討することによって、点字の読み取りの過程を明らかにすることを研究の目的とした。
研究の方法として、点字常用者がひとつひとつの点字を読み取る際にどのように感じているかを調べ、その結果をカテゴリー化し、被験者の個人的な要因と関連づけて分析することとした。
まず、被験者に提示する調査用紙として、1マスの点字63字形と、2マスの点字125字形を、児童亜鉛板製版装置で製版し、プレス印刷した。これは、すべての被験者に同一の条件で刺激字形を提示するためである。なお、点の大きさは、直径1.4mm、高さ0.4mmで、点間とマス間の間隔は、図2(a)に示したとおりである。
1マスの点字は、縦3点、横2列の6点から成り、その組み合わせは63であるが、そのうち48字形が仮名文字の清音、撥音、促音、長音符にあてられており、残りの15字形は、句読符各種の前置符に用いられている。2マスの点字は、1マスの点字をふたつに並べたもので、1マス目はモードを表す前置符となっている。すなわち点字の表記においては、濁音、半濁音、拗音、外来音、数字、アルファベットなどをモードと考えて、1マス目に、濁音、半濁音、拗音点、外来音点、数符、外字符などの前置符を置いて区別している。そのため、たとえ2マス目が同じ字形であっても、数字とアルファベットなどを読み分けることができるのである。これらの前置府と実質的な記号との関係をどう感じているかを調べるために、そのような2マスの点字によって構成される125字形をも刺激字形としたのである。
被験者は、盲学校小学部児童3名、中学部生徒16名、高等部生徒6名、成人5名の計30名で、いずれも点字を常時手で触読している。
この被験者に、1マス63字形と2マスの125字形をひとつずつ読み取らせ、正確に読み取っているかどうかを確認した後で、指先を動かしながら読み取るとき、その字形をどのように感じるかについて言語報告させた。適切に表現できない場合には、補助的手段として、その印象を机の上に手指で描かせて確認した。
一方、被験者の触読能力を調べるために、文章と文字について1分間の速読みテストを行った。文章の速読みテストの材料として、小学校2年の国語の教科書から「道具の働き」を点訳したものを用いた。1分間に読み上げた総マス数から、誤読マス数と混入マス数を除去したものを速さの規準とした。文字の速読みテストの材料として、1マスで孤立して与えても誤読のおそれのない31字形を選び、順序をランダムにして10系列作った。この場合、合計310字形を1マスおきに印刷した。文字の速読みの場合も文章の速読みの場合と同様に、1分間の正読マス数を速さの規準とした。
そのほかに被験者の個人的な要因として、読指の触2点弁別閾の測定を行い、触読年数、生活年齢、失明年齢などを調査した。30名の被験者について、これらの諸要因の分布状況は、次のとおりである。
(1)触読年数は、平均9.1年(SD7.7)、範囲は1〜36年であった。
(2)生活年齢は、平均17.9歳(SD7.7)、範囲は10〜42歳であった。
(3)失明年齢は、平均3.8歳(SD6.1)、範囲は0〜25歳であった。
(4)触2点弁別閾は、平均0.98mm(SD0.42)、範囲は、0.3〜1.9mmであった。
提示した刺激字形に対して、被験者の報告から得られた反応パターンを、点の結合の仕方によって、A〜Gの7つにカテゴリー化した。各カテゴリーの定義と例は、表1の下部に示したとおりである。すなわちAは孤立した点パターン、Bは水平方向に並ぶ点を結合する横線パターン、Cは垂直方向に並ぶ点を結合する縦線パターン、Dは垂直と水平の方向に並ぶ点を同時に結合するカギ型パターン、Eは高さの異なった左右の点を結合する斜線パターン、Fは垂直と水平の方向にまとまって並ぶ4点か6点を結合する正方形か長方形のパターン、Gは高さの異なった点を結合した斜線を1辺とする三角形か四角形のパターンである。(表1参照)
1マス点字の字形に対して、30名の被験者がどのような反応パターンをとるのかを表したのが、表1である。縦の欄は、63字形の物理的な側面で分類し、配列したものである。すなわち、点の少ない字形から並べ、同じ点の数であれば距離の近いものから並べた。そのとき隣り合った同形の字形をまとめて、21の類に分類した。さらに、類の中では横から縦、左から右への方向も考慮して、各字形を配列した。同じ類に所属する字形では、反応の傾向がおおむね一致しているので、各類に所属する最初の字形をその類の代表字形とした。その代表字形に対して、30名の被験者がどのような反応パターンを示したのかを人数で表した。また、被験者の反応の一致の程度を表すために、反応集中度指数を示した。この反応集中度指数は、A〜Gの各カテゴリーに分類された人数の自乗を総和して得られたもので、数値が大きいほど被験者の反応が一致していることを示している。
1類、5類、6類のような孤立した点や離れた点からなる字形に対する反応は、Aの点パターンに集中している。2類、12類、14類のように横に2点が並び、縦が離れている字形では、反応はBの横線パターンに集中している。3類、7類のような縦に隣り合う点からなる字形では、反応がCの縦線パターンに集中している。これらの字形では、物理的側面の反応規定性が極めて強い。
表1を反応集中度の面から見直したのが、図1である。各類に所属する字形の反応集中度指数について平均を取り、その高い方から順に配列したもので、縦の線はその範囲を表している。この場合、グラフの左の方に、前述した各類が集まっていて、物理的側面の反応規定性の強さを示唆している。17類、8類、9類、19類のように、反応がDのカギ型パターンに集中しやすい字形や、13類、21類のようにFの四角形パターンに集中しやすい字形は、類番号の位置より左寄りに移り、物理的反応規定性がかなり働いていることを示している。これに対して、10類、4類および11類から右側の各類は、EやGの反応パターンを引き出しやすい字形であるが、反応は分散しており、個人的要因によって規定される傾向をもつことが示唆される。
個人的要因は、触読能力のひとつとしての速読みテストの結果と、その他の要因とに大別される。ここで、文章と文字の速読みテストの結果の分布を記す。文章の速読みにおける1分間のマス数は、平均289.5マス(SD 133.6)、範囲は74〜611マスであった。文字の速読みにおける1分間のマス数は、平均117.6マス(SD 31.2)、範囲は35〜184マスであった。その他の個人的要因である触読年数、生活年齢、失明年齢、触2点弁別閾については、前述のとおりである。
そこで、反応パターンと個人的要因との関連を明らかにするために、これらの個人的要因の数値に低いものから順に順位をつけ、ノンパラメトリックな手法で統計的に処理した。すなわち、各要因について、反応が別れた被験者群の間で差があるかどうか検定を行い、5%の有意水準で差が認められたものだけを取り上げた。検定は63字形すべてについて行ったが、全要因と有意差を認めなかった字形を除いて表2にまとめた。
表に記載されている18の字形は、図1において右側に集まっていた、反応集中度の低い字形と結果的に一致した。なお、表中の2つのアルファベットは、星印で示した水準で差が有意であった1対の反応パターンで、左側の反応パターンの方が、右側よりもその要因についての数値が高いことを示している。
この表2からは次のようなことが分かった。
1)触読能力(文章の読み):高さの異なった2点が左右に並ぶ4類や11類に所属する字形では、速い読み手が左右を分離するAの点パターンをとり、一方、遅い読み手は左右を一体化するEの斜線パターンに集まっている。また、16類の「ソ」でも、左右を分離するCの縦線パターンに速い読み手が集中し、左右を一体化するGの三角形パターンに遅い読み手が集まっている。
2)触読能力(文字の速読み):4類の「オ」と11類の「コ」では、速い読み手が左右を分離するAの点パターンをとり、遅い読み手は左右を一体化するEの斜線パターンに集まっている。また、16類の「ソ」と「チ」では、縦と横を結合するDのカギと点のパターンに速い読み手が集中し、左右を一体化するGの三角形パターンに遅い読み手が集まっている。
3)触読年数:4類と11類に所属する字形では、触読年数の長い読み手が左右を分離するAの点パターンをとり、触読年数の短い読み手は、左右を一体化するEの斜線パターンに集まっている。また、16類の「ソ」と「チ」、15類の「シ」と「ト」、20類の「セ」、「モ」、「テ」、「ミ」では、左右を分離するCの縦線パターンに触読年数の長い読み手が多く、斜線を含む画面形に一体化したGパターンに触読年数の短い読み手が集中している。なお、20類の「セ」、「モ」、「テ」では、CGの間に、正方形と点のパターンFが位置し、CF、CG、FGのすべての組み合わせで有意差が見られた。すなわち、F反応パターン群の触読年数は、Cパターン群より短く、Gパターン群よりも長かった。そのほかに、18類の「ケ」、「マ」では、Dのカギ型パターンに触読年数の長い読み手が、Eの斜線パターンに触読年数の短い読み手が集まっており、13類の「レ」、「レ下がり」では、Bの横線パターンに触読年数の長い読み手が、Fの正方形パターンに触読年数の短い読み手が集まっている。
4)生活年齢:11類の「コ」と「タ」、20類の「セ」と「テ」では、触読年数の場合と同じ傾向を示している。しかし、15類の「シ」と「ト」では、生活年齢の高い読み手がDのカギ型パターンに集まっており、生活年齢の低い読み手は、Gの平行四辺形パターンに集まっている。
5)失明年齢:15類の「シ」と「ト」だけでGCとGDの2組に有意差がある。すなわち、失明の時期が遅い読み手は、Gの平行四辺形パターンに集まっているのに対して、早期に失明した読み手は、Cの縦線パターンか、Dのカギ型と点のパターンに集まっている。
6)触2点弁別閾:15類の「シ」と「ト」では、弁別閾が高い読み手がCの縦線パターンをとり、低い読み手はDのカギ型パターンに集まっている。20類の「セ」、「テ」、「ミ」では、弁別閾の高い読み手がCの縦線パターンをとり、低い読み手はFの正方形と点のパターンに集まっている。つまり、弁別閾の高い読み手、言い換えれば弁別感度の悪い読み手の反応は、縦方向への結合が強い。一方、弁別感度の良い読み手は、縦方向よりも水平方向へ結合した反応をする傾向がみられる。
反応が分散している字形だけでなく、1マスの63字形をまとめて、反応パターン間相互と反応を規定する要因との相関をみた。また、個々の被験者が、2マスの125字形で、1マス目の前置符と2マス目とを分離して反応している数を加算し、少ない方から順位をつけて、これを2マス分離と名付け、反応パターンの項目に加えて他の項目との相関をみた。
反応を規定する要因としては、触読能力と触読年数を取り上げた。触読能力については、文章と文字の速読みの2項目があるが、この両者は、積率相関係数の計算から、1%の水準で有意に高い相関(r=.79)があったので、文章の速読みを触読能力の代表とした。
表3は、1マス点字のA〜Gの反応パターン、2マス点字の分離の程度、触読能力(文章速読み)、触読年数の10項目について、ケンドールの順位相関係数の計算から得られた、5%の有意水準の数値を示した相関表である。この表3から次のようなことがわかる。
1)反応間相互:1マスのA〜Gのパターンおよび2マス分離の反応パターンの8項目相互の相関について、3つのグループに分けてみることができる。第1のグループは、A、B、Cと2マス分離で、相互にプラスの相関がある。このうち、AとCは、1マスを左右に分離し、2マス分離は1マス目と2マス目を分離する反応パターンであるが、Bは水平に並ぶ2点を横に結合する反応パターンである。第2グループは、E、F、Gで、これらは相互には相関はないが、第1のグループとの間にマイナスの相関があるので、ひとつのグループとしてまとめることができる。このうちEとGは、高さの異なった左右の点を結合する反応パターンであるが、Fは水平方向に並ぶ左右の点を横に結合する反応パターンである。第3は、グループといってもDだけで、第1グループとの相関はないが、第2グループのFとはプラスの相関があり、Gとはマイナスの相関がある。DとFとは、水平方向に並ぶ点を横に結合することで共通点があり、高さの異なった左右の点を結合するGとは異なっている。
2)規定要因間相互:反応を規定する要因相互の相関については、触読能力(文章の速読み)と触読年数との相関だけである。その相関は+.54で、触読年数の長い読み手は、触読能力もおおむね高いと言える。
3)反応と規定要因間:反応パターンと反応パターンを規定する要因との相関について、触読能力(文章の速読み)とは、Aと2マス分離とのふたつにプラスの相関があり、Eの斜線パターンとマイナスの相関がある。触読年数とは、前出の第1グループのA、B、C、2マス分離とプラスの相関があり、第2グループのうちのEとGとにマイナスの相関がある。なお、Dのカギ型パターンとFの方形のパターンは、触読能力と触読年数のいずれとも相関がない。
点字パターン認識を規定する諸要因のうち、最も規定性が強いのは、物理的な側面である。物理的側面には、点の大きさ、点間やマス間の寸法、および字形がある。今回の研究では、このうち、字形の相違に着目した。
表1や図1でみたように、離れた点は孤立し、垂直や水平方向に隣り合った点は結合しやすい。また、分離や結合の組み合わせの可能性の少ない単純な字形では、反応パターンが1種類に集中する。逆に可能な結合の組み合わせが多い字形に対する反応パターンは、他種類に分離する。この場合、どの反応パターンをとるかを規定するのが、個人的要因である。
個人的な要因としては、触読年数と触読能力とが多くの字形の反応パターンを規定している。そのほかの要因(生活年齢、失明年齢、触2点弁別閾)も、特定の字形では多少の規定性をもつが、一般化しがたい。その上、これらの要因は、点字学習指導法との関連が少ない。そこで、反応パターンを規定する諸要因のうち、触読年数と触読能力を重視し、このふたつの側面から優れた読み手の方略を明らかにする必要がある。
触読年数が長く、触読能力が高い読み手が、左右を半マスずつ分離するAやCのパターンをとり、触読年数が短く、触読能力が低い読み手が、点の位置の高さの異なった左右の点を斜線で結合するEやGのパターンを取る理由として、通過時間とマスキングの問題が考えられる。
今回の被験者30名のうち40%にあたる12名は、文章の速読みテストで、1分間に300マス以上の速さで読むことができる。これを図2(a)に示した点字の寸法で計算すると、1マスの領域(1マス目の1の点から2マス目の1の点まで)を通過するのにかかる時間は、0.2秒で、1の点と4の点、つまり左側の列から右側の列までの通過時間は、0.08秒である。文章読みの場合、文脈効果が働いて、通過時間をより短くしていると思われる。そこで、文字の速読みの結果から通過時間を検討してみることにする。30名の被験者のうち半数の15名が、1分間に120マス以上の文字を読むことができる。文字の速読み材料は、1マスおきに印刷されているので、1文字の領域は2マス分に相当する。先ほどと同様に、図2(a)の点字の寸法から割り出すと、1文字の領域を通過するのに要する時間は0.5秒なので、1文字の左側の列から右側の列までの経過時間は、平均で0.1秒である。ただし、実際に文字部分を通過するのに要する時間は、マス空け部分を通過するのに要する時間よりもやや長くなっているので、0.1秒よりやや長い時間を要すると思われる。いずれにしても、比較的速い読み手の1マスの通過時間としては、文章の速読みより長く、文字の速読みより短い時間として約0.1秒程度を想定することができる。
伊福部 達らの指先の触覚における心理物理的な一連の基礎研究の結果によれば、ふたつの刺激の時間が0.2秒以内に近づけば順向マスキングが起こり、0.1秒以内では逆向マスキングが起こるという。従って、比較的速い読み手の場合には、1マスの右側半列から左側半列に対して逆向マスキングが生じていると考えるのが至当である。にもかかわらず、1マスの点字の左右を半マスずつ分離する反応パターンを取っている詠み手が、文字の速読みで1分間に120マス以上を読み取ることができるのは、図2(c)に示すような階層的な処理を行っているためと思われる。
すなわち、次に入ってくる右側の半マスによる逆向マスキングが起こる前に、最初に入ってきた左側の半マスが処理され、ひとつ上の第2のレベルで待機していると想定される。この場合、左側半マスの3点の組み合わせから生ずる8通りの中から、ひとつの組み合わせだけが同定されているので、文字として同定すべき文字の候補は、63字形の8分の1の8字形に絞り込まれている。ついで右側の半マスが入ってくると、左側の場合と同様に処理され、8通りの中のひとつの組み合わせが同定されて、ひとつ上のレベルに上がってくる。そこでただちに候補の8字形の中から1字形が同定されるため、処理時間が短くて済むものと考えられる。
このようにして、第1のレベルで半マスずつ同定されたものの印象を表したのが、図2(b)の「ラ」、「ソ」、「セ」の下側のA、Cのパターンであると考えられる。それに対して上側のE、Gの反応パターンは、第1のレベルで左右の分離処理をしないまま、第2のレベルで、左右2列の点が揃ってから一括して処理したときの印象を反映しているものと思われる。一括して処理する読み手の場合、文字の同定のために選択すべき候補を、63字形から減らすことがないため、処理時間が多くかかり、遅い読み手となっていることが考えられる。
残りのDのカギ型パターンと、Fの方形パターンについては、速い読み手と遅い読み手の両方が取っているので、A、C、E、Gのようには処理時間との関連が明らかでない。ただ、DやFの反応パターンを引き出す字形は、Bの反応パターンを引き出す字形と共に、水平方向に並ぶ点をもっているので、たとえ左右を分離する処理方略をとっていても、横方向への印象を強化されてしまうのではなかろうか。
いずれにしても、触読年数が長く、触読能力が高い読み手が、多くの字形で左右を分離して処理する方略を採っているものと想定される。
2マスの点字でも、速い読み手が1マス目と2マス目とを分離する反応パターンをとっているが、この場合の処理方略は、図2(c)に示したように、第1、第2、第3までの3つのレベルを含む階層的なものであると思われる。すなわち、1マス目の前置符で濁音か数字かあるふぁべっとかなどのモードが決まるので、2マスの字形の候補が限定されるとともに、2マス目の字形が同型であってもすぐに同定されうるのである。図2(b)の「ツィ」を一体化したのでは、前置符の役割が果たせないために、処理時間が長くなるものと思われる。
ところで、漢字を点字で表す場合、それが漢字であることを示す符号を、前置符で表す方式と、6点点字の上か下に付けた7点目と8点目のふたつの付加点で表す方式とがある。前置符方式の漢字を処理する方略は、図2(c)に示したように、2マス点字の処理方略の延長として位置づけることができるが、2マス点字の場合よりもさらに上の第4のレベルまでもって行かなければひとつの漢字を同定できないため、多くの処理時間を要する。これに対して、付加点方式の漢字を読み取る方略は、2マス点字の場合と同じなので、処理時間は短い。ただ、付加点を6点の実質部分とパラレルに処理しなければならないため、6点からの移行に際して、どのような教育的配慮が必要であるのかを検討する必要がある。
読みの速さは、反応パターンを規定する要因でもあるが、逆に、そのような反応パターンを取っている読み手が速い読み手であるとも言える。そこで、速い読み手の方略を、入門期に学習させるプログラムを作成する必要がある。この学習プログラムのステップは、次のようなものが考えられる。まず第1のステップは、左半分の3点のみから成る文字で、縦1列ずつに同定する能力を習得させるものである。第2ステップは、1マスの左側3点からなる8通りの組み合わせに従って、63字形を分類し、左側が与えられればそれに属する8字形が想起できるようにするプログラムである。第3のステップは、左側の8通りの組み合わせのひとつに続いて、右側の8通りの組み合わせのひとつが任意に与えられると、その文字を同定できるようにするプログラムである。第4ステップは、2マス点字の前置符が与えられると、そのモードに分類されている字形が想起でき、そのうちのひとつが任意に与えられると、2マスの文字を同定できるようにするものである。
従来、1マスを最小の単位として、読み取りの方略が考えられてきたが、この研究によって、1マスをさらに左右に分離して読み取る方略、すなわち継時的に入ってくる半マスずつをそのつど処理してゆく方略を習得させることが、速い読み手を育成する上で有効であることが示唆された。
この研究は、文部省科学研究費特定研究(1)「障害者のための補助的言語、その表記法及び教育法の標準化」から、研究費の一部を負っている。
〔謝辞〕調査・実験にあたっては、札幌盲学校の藤井健造教諭に御協力いただいたことを深く感謝している。
引用文献
1)伊福部 達・湊 博・吉本千禎:心理物理実験によるタクタイル・ボコーダーの基礎的研究.日本音響学会誌,31(3),170-178,1975.
2)伊福部 達:情報伝達における触覚の特性.第九回IBMウェルフェアセミナー報告集,点字とコンピューター3,49-66,1979.
(受講年月日 昭和59年10月12日)
Even congenitally blind children feel difficulties to improve the ability of reading braille and worse do the adventitiously blind. Present investigation was conducted to make clear the process of braille reading in faster and skillful readers and to develope and effective method of guidance for the introductory course.
63 one cell braille letters and 125 two cell braille letters were presented one by one to 30 braille readers who were then asked to report the impression of these letters in reading. Verbally reported impressions were categorized in terms of imaginary connections between dots in braile. Rekationships between categarized responses and tested braille reading speed, threshold of two point discrimination, braille reading career, chronological age, and the age when he/she became blind were statistically analysed to result in the following points :
1) In such cases of one cell braille letters in which reader's responses were diverged into more than one categories by individual factors faster readers who had long career in braille reading had tendency to divide a letter into left and right halves while slower readers of short career had the contrary tendency to unite two halves of one cell into a single figure.
2) The same tendency was observed also in two cell braille letters. Faster and long career readers were likely to separate the first cell from the second cell, whereas slower and short career readers were inclined to unify two cells into a single figure.
In both cases of one cell and two cell letters, it is assumed there exists such a braille reading process that reduces the processing thme by at first dividing letters then limiting the letter candidates for identification according to the first halves of letters. A guidance system that children learn such a strategy is nessary to be establishied.
出典:「国立特殊教育総合研究所研究紀要」第12巻 別刷、pp107-115、国立特殊教育総合研究所、1985年3月.