証券の流動性と市場システム
鈴木隆徳
現在私達は金融ビッグバンとIT革命により日本の証券流通市場が変化する過程に居合わせている。取引手数料の自由化に伴うオンライントレードの興隆はその代表的な例であろう。しかし、「メーデー」と呼ばれる1975年5月1日に既に取引手数料を自由化していたアメリカにおいては、裾野の広い株式流通市場の形成が達成された現在、IT革命により日本の変化のさらに先を行く新たな変化を経験している段階にある。
アメリカの証券市場は、NYSEやNasdaqシステムに代表される「取引所」が、衛星的にそのような取引所に上場された金融商品を独自の売買システムで売買するECN(電子証券取引ネットワーク)から侵食を受け取引を奪われるという状況にある。現在稼動している9つのECNにより、Nasdaq銘柄は全取引量の約3割がNasdaqシステムの外での約定になっており、この傾向はさらに進むと思われている。対抗手段としてNYSEやNasdaqなどの従来の取引システムは、取引時間の延長や、売買注文の付け合せのコンピュータ化を検討するなど、自身がECNと同様の役割を果たすことを目指し始めている。
こうした証券流通市場の動きの背景には、より「有利な条件」で取引を行いたいという投資家の取引手段に対する選別意識の高まりがある。そして、ここで言われる「有利な条件」とは広い意味での「流動性」のことなのである。
この研究では、証券の流動性に焦点をしぼり二つの問題を考える。一つは、取引システムが提供できる流動性の違いに対し、投資家がどのように反応するのかという問題についてである。そしてもう一つは、取引システム間の競争の結果、今後証券流通市場がどのようになっていくのかという問題である。一つめの問題は特に個人資金の証券市場への流入と機関投資家のマーケット・インパクトの二点に注目する。二つめの問題は統一市場の形成の可能性について、考えうる幾つかのケースを検討する。
最先端の動向はアメリカを中心に起こっているが、日本もNasdaq Japanの設立や取引所外取引の解禁などによりこうした動きに加わる準備は整いつつある。したがって、アメリカの例を随時参考にして日本が経験するであろう変化についても考えたい。