1998年12月8日

       早期是正措置、金融再生法、金融早期健全化法の適切な運営を求める

                       金融監督政策研究会、第三回提言


金融監督政策研究会(経済学者・法学者グループ)

深尾光洋(慶応義塾大学商学部教授)、世話人。池尾和人(慶応義塾大学経済学部教
授)、伊藤隆敏(一橋大学経済研究所教授)、岩村充(早稲田大学アジア太平洋研究
センター教授)、翁百合(日本総合研究所主任研究員)、神田秀樹(東京大学法学部
教授)、香西泰(日本経済研究センター会長)、堀内昭義(東京大学経済学部教授)、
星岳雄(カリフォルニア大学サンディエゴ校助教授)。なお岩村充は、今回の提言作
成には参加していない。
金融監督政策研究会の提言活動は、東京経済研究センターのプロジェクトとして助成
を受けている。

本提言に関する連絡先。
深尾光洋(TEL/FAX: 03-3945-3520、自宅)Email: fukao@fbc.keio.ac.jp
伊藤隆敏(TEL/FAX: 03-5724-5808、自宅)Email: ITOINTOKYO@aol.com

要約
1.政治家、監督当局へのメッセージ
(1)当局は早期是正措置、金融再生法、金融早期健全化法を法の主旨に基づいて厳正
に運用すべだ。
(2)公的資金による増資は銀行が自助努力により市場で資本調達した場合に限るべき
だ。
(3)不良債権のディスクロージャーを徹底すべきだ。
(4)金融監督当局の責任と権限の明確化が必要だ。
(5)国営化ないしは国家管理下に置かれた金融機関については、その営業の速やかな
譲渡ないしは再民営化を確実にするために、経営者の目標を明確にすべきだ。
2.金融機関経営者、国民へのメッセージ
(1)大銀行の経営者は将来収益を出せる経営体質にする計画を明示すべきだ。
(2)金融機関の整理による景気への下方圧力は避けられない
(3)間接金融の縮小は避けられない。
(4)金融機関経営の改善は、いわゆるリストラ、業務縮小だけでは解決にならない。
厳しい競争のなかで生き残るための、前向きの戦略が必要である。


 1.金融システム安定化政策の運営
(1)当局は早期是正措置、金融再生法、金融早期健全化法を法の主旨に基づいて厳正
に運用すべだ。

債務超過銀行や(利益を上げる見込みのないという意味で)継続価値のない銀行に、
早期健全化法による資本注入をすべきではない。金融再生法の枠組みが出来たのだか
ら、債務超過銀行のブリッジバンク化、早期是正措置の厳正な運用を行うべきだ。こ
れは、オーバー・バンキングを是正する枠組となる。

早期健全化法の適用にあたっては、有価証券は低価法で評価し、また分類債権につい
ては将来回収見込額の割引現在価値で評価すべきだ。存続不可能な貸出先の債務につ
いて、実質的な保証を行っている場合には、その損失見込額を全て反映した自己資本
を算出すべきだ。現在、一般貸し倒れ引当金は広義自己資本に含まれているが、第二
分類債権の貸し倒れ見積もりに対応する部分は、自己資本から除外すべきだ。

長銀や拓銀の破綻において劣後債務が資本として機能しなかった経験を踏まえ、劣後
債務について劣後条項を精査し、金融再生法の枠組みでの破綻処理において劣後条項
が発動できない債務は、5年程度の移行期間を設けて、自己資本から排除すべきだ。

(2)公的資金による増資は銀行が自助努力により市場で資本調達した場合に限るべき
だ。

公的資金による増資は、銀行が自助努力により市場で資本調達した場合に限るべきだ。
なぜなら金融早期健全化法の主旨は、継続価値のある銀行の過小資本状態を解消する
ことにあるので、市場で存続可能性が懸念されている銀行に、公的資本を注入すべき
ではないからだ。

公的資本の注入は、子会社やSPCの増資ではなく、本体の増資とすべきだ。この点で、
金融監督庁の態度は評価できる。優先株の場合には、銀行の配当負担を軽減するため
に、法人税課税上支払い配当の損金算入を認めるべきだ。

公的資金の注入において、中小企業向け貸出の増加が義務づけられると報道されてい
る。公的資金の注入は、銀行のリスク負担能力を増加させ、貸出余力を増すものであ
る。しかし与信の判断は、銀行がリスクに見合う収益を得られる見通しを基準とすべ
きであり、金額や伸び率目標を与えるべきではない。

公的資金の注入を優先株式で行う場合には、配当について優先するばかりでなく、残
余財産処分においても優先されるものとすべきだ。また優先株の持つ潜在的な議決権
の数は、優先株式の払込金額と普通株式の市場価格の比率に比例させるべきであり、
株主相互間の完全な公平を保つべきだ。また、金融機関の健全化が達成され、株価が
上昇した場合に国がその値上がり利益を享受できるようにするために、優先株式に普
通株式への転換権を付すことが望ましい。

劣後債務の形で公的資金を投入する場合には、金融再生法による破綻処理においても
劣後条項が発動される形式とすべきだ。

(3)不良債権のディスクロージャーを徹底すべきだ。

早急に銀行の会計基準を国際会計基準ないしは米国のFASBに移行すべきだ。不良債権
の開示基準が毎年のように変更されているが、これでは信頼を回復できない。実質基
準による連結ベースの総与信について、引き当ての必要性に応じた分類債権を各行別
に開示すべきだ。

また標準的な引当率を当局が根拠を開示して示し、金融機関は、この引当率と異なる
引き当てを行う場合にはその理由を明確に示すべきだ。標準的な引当率は、回収可能
金額の割引現在価値を基礎として計算すべきだ。

(4)金融監督当局の責任と権限の明確化が必要だ。

今回の法律で設置される金融再生委員会や金融監督庁、大蔵省、預金保険機構など多
くの機関が、金融再生にかかわる業務に今後取り組むことになる。これらの機関の責
任と権限の範囲を明確にしておく必要がある。

例えば現在多くの金融検査官は、大蔵省に所属しつつ金融監督庁の指揮を受けている。
このため、金融監督庁は多くの検査官の人事考課権限を持っていない。こうした状況
は、監督権限の切り分けの面からは大きな問題であり、早急に検査官を金融監督庁に
移籍すべきだ。

また、金融監督庁には、検査等に必要な予算と人員を配置すべきだ。

(5)国営化ないしは国家管理下に置かれた金融機関については、その営業の速やかな
譲渡ないしは再民営化を確実にするために、経営者の目標を明確にすべきだ。

長銀のような破綻金融機関を早期に再建ないし民営化できた経営者には、成功報酬を
与えるなどにより、国営化された金融機関であっても、早期民営化に努力する経営者
にそのインセンティブを引き出す報酬を考えるべきだ。

2.金融業務、金融システムの再構築
(1)大銀行の経営者は将来収益を出せる経営体質にする計画を明示すべきだ。

大銀行は、自らの経営責任を果たすために、どのようにして市場の信用を取り戻すの
か、その道筋を明確に打ち出すべきだ。市場なしいは公的資金による増資で、どのよ
うに収益性を回復できるのか。どのようなペースで不採算事業を切り捨て、どの分野
に経営資源を集中するのか、等を明確に示すべきだ。

(2)金融機関の整理による景気への下方圧力は避けられない

金融システムの健全化は、中期的に日本経済が成長力を取り戻すために避けることが
出来ない課題だ。しかし同時に、金融機関の破綻処理や業界再編は、短期的に景気に
相当強いマイナスの影響を与えることが予想される。債務超過に陥り、かつ本業で利
益を上げられる見通しがないにもかかわらず、金融機関の支援でなんとか生き延びて
きた企業が、連鎖して破綻する可能性が高い。こうした企業の整理淘汰は、日本経済
の構造改革のために避けられないが、その社会的なコストを最小限にしつつ調整を円
滑に進めるために、思い切った政策的な手当が必要だ。

(3)間接金融の縮小は避けられない。

公的資金を注入すれば、極端な回収競争は収まるだろうが、貸し渋りは構造的な問題
であり、そう簡単には収まらないことを認識すべきだ。銀行は平均的な貸し倒れに対
応した利鞘を確保する必要があり、市場金利と比較した平均的な貸出金利はむしろ上
昇することを覚悟すべきだ。

(4)金融機関経営の改善は、いわゆるリストラ、業務縮小だけでは解決にならない。
厳しい競争のなかで生き残るための、前向きの戦略が必要である。

一律の給与削減は職場の公平感の維持には役立つが、優秀な人材を引き留めることは
出来ない。金融業務の国際競争の激化の中では、人材にも市場価値を反映した報酬を
与える必要が高まっている。利益の上げられる人材はむしろ大幅に給与を引き上げ、
利益の出せない人材には、それに見合った報酬とすべきだ。人員を大幅に減らす代わ
りに、平均給与を引き上げるような戦略も当然考えられる。

                                                                   以 上



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