経済資料論

 この講義でとりあげる経済資料は,現実の経済社会において観測される経済統計データである。経済統計データは,単なる観測値の集合ではない。あらかじめ,観測対象とする経済現象を定義し,その経済現象が生起する経済空間(経済社会)を定めた上で,さまざまな統計調査方法に基づいて観測される数値情報の体系である。従来,体系的な経済統計データは,それが公共財的性質をもつことから,主に,政府によって作成されてきた。最近では,社会的情報化の進展にともなって,経済情報もまた取引の対象として商品価値をもつことから,民間主体によってもさまざまな経済統計データが作成されている。しかし,民間の経済統計データは,私的財であり,政府統計とは異なる性質をもっている。この講義では,もっぱら政府によって作成される経済統計データに焦点を絞る。

 経済統計データは,経済現象を統計的に記述し,経済現象の実態を数値的に認識するための資料であるが,それのみによっては,経済現象の発生メカニズムを分析することはできない。いま,実際に観測される経済現象の発生メカニズムを分析するためには,まず,発生メカニズムに関する理論モデルを構築しなければならない。その上で,理論モデルの現実妥当性を判定するために,経済統計データを用いて,理論モデルのパラメータを推定するのである。これら一連の分析手法が,実証理論分析といわれる方法である。

 この講義でも,単に経済統計データを解説するだけでなく,実証理論分析における理論モデルと経済統計データの関係について,具体的な分析事例を示しながら検討する。一年間の講義で取り上げるテーマは,次のようである。

  1. 国民経済の統計的記述(新SNA)
  2. 国民所得統計とマクロ経済分析
  3. 産業連関表と産業構造分析
  4. 資金循環表
  5. 国際収支表
  6. 家計調査系統計資料

なお,参考文献については適宜講義時間のなかで指示する。


なお、この講義要綱は経済資料論(春・秋)全体のものです。