自由研究セミナー
−経済 統計 資料のみかた−

赤林 由雄

授業の目的および内容

 私たちをとりまく「経済」は今、さまざまな問題を抱えている。新聞の一面に経済に関する見出しが踊らぬ日はない。この新聞で日々報じられるような現象を、経済学部に入った諸君は理解できるようになっただろうか? すべてを理解できないまでも、「今、日本のGNPはどれくらいか?」とか「なぜ日米間の貿易不均衡が発生したのか?」といったごくごく初歩的な質問には答えられるだろうか?
 諸君は経済原論で経済学を学ぶはずである。そして経済学は諸君が直面している現実の経済を理解するために必要不可欠なはずである。それなのに答えられないとすればそれはどうしてなのだろうか?
 諸君が原論で学ぶのはあくまで理論である。この理論を現実にあてはめようとしなければ、経済学によってどのように現実が説明できるのかはわからないだろう。理論というメガネがあっても、それで現実を見ようとしなければ現実はわからないのだ。
 この自由研究セミナーでは「国民経済計算」や「産業連関表」といった統計資料によって理論と現実をつなげていくのが目的である。諸君にもレポートや演習によって統計にふれてもらうことになる。また理論の理解も深めてもらわなければならない。さらにビデオ教材やさまざまな企画によって現実の経済を実感してもらおうと思っている。
これらのレポートや演習をこなすためにはコンピュータをよき道具として使えることが前提となる。統計資料から数値をひっぱってきて、グラフをかいたり成長率を計算したり消費関数を計測してみたり、といったことをいちいち手と電卓でやっていたら日が暮れてしまうだろう。そんなことは計算センターの大型コンピュータを使って、数値を日経NEEDSなどのデータベースからひっぱってきて、Excelといった表計算ソフトや統計処理パッケージにかけて処理するという方法をとるならば(慣れてしまえば)30分もあればできることなのである。そしてこれは諸君が思うほどには難しいことではない。
 単なる表計算ソフトの使い方であれば「情報処理入門」でも学ぶことができる。特に私の担当する「情報処理入門」のクラスにおいては大型コンピュータから経済データをひっぱってきてグラフを描かせたり、さまざまな計算をしたり、回帰分析をする、といったことまでやっている(「情報処理入門」でそこまで親切にやるような授業は他にはないのであるが、ただエグいとしか感じない学生も少なからずいるのは担当者としては残念なことである)。しかしそこではあくまで手法を身につけることが目的である。それに対し、この自由研究セミナーでは現実の経済データでそれらの処理を行って、そのデータからさまざまなことを読み取っていくことが目的なのである。そのような処理をするときにどのような視点からこれらのデータをみていけばよいのか、を学ぶことがこの自由研究セミナーの目的なのである。
 もちろんそういった演習を何回も繰り返していくうちに、コンピュータを使ったデータ処理にも熟達し、さまざまなノウハウが蓄積されていくであろう。このノウハウは三田へ行ってから(計量経済学以外のゼミを希望するものにとっても)役立つはずである。
 ここまで読んでビビってしまった諸君もいるかもしれないが、私は最初からこのようなことが完璧にできるなどということは期待していない。そのような能力は課題をこなしていくうちに自然と身につけていけばよいのである。過去に受講した学生たちも出された課題をこなしていくうちにコンピュータを使えるようになっている。だから安心して受講して欲しい。
しかしこの自由研究セミナーでは手とり足とり教えるということはしない。諸君はまがりなりにも大学生である。何から何まで教えてもらわなければ何もできないようでは困りものである。自分の頭で考えてみて試行錯誤を繰り返したり、興味をもったことを自分なりにいろいろ調べたりしなければ何の意味もないと私は思っている。知識やノウハウは黙って待っていれば向こうからやってくると思っている諸君はこの授業を履修しないほうがよいだろう。
とにかくも、この自由研究セミナーを受講する諸君にとってはまさに統計資料まみれ・コンピュータ漬けのハードな1年になるかもしれない。しかしそれを乗り越えてこそ、経済・統計・資料のみかたがシッカリと身につくのではなかろうか。昨今の学生にとってはこういう「ガンガンやろうゼ」というハードなノリの授業はウケないのは承知の上である。しかし甘い言葉で履修者をおびきよせておいて、実にならない1年を過ごさせて単位をただでくれてやるようなことはしたくない。諸君にはこの1年のうちに自分なりの問題意識をつくりあげていって欲しいのである。そうすれば三田のゼミでなにを研究するかという方向づけもおのずとできてくるだろう。つまりこの自由研究セミナーは三田で充実した2年間を過ごすための基礎固めとなれば、と考えて運営するつもりなのである。

(注意)

教科書

 なし

参考書


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