歴史的にも国際的にも英語(the English language)の最も優れた理解者であり実践家でもあるウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare 1564−1616)の戯曲作品を通して、我々自身の国際語である英語に対する理解と鑑賞能力、並びに運用能力を高めようとするささやかな試み("a tender attempt")が、担当セミナーの主たる目的である。
21世紀というダイナミックな新世紀を生き抜くために現在我々に最も要求されている資質(human qualities)は何かというと、それは各々のセミナー受講生である塾生が最高学府である大学教育を通して身に付けなければならないところのhumanism、humility、そしてhumourに収斂されるところの資質ではないだろうか。すなわち、ヒューマニズムに満ち溢れ、謙遜の美徳を兼ね備え、さらにユーモアのセンスを身に付けた懐の奥深い人間味溢れた人間に自らを陶冶(cultivate)することが求められているのである。これらの資質を身に付けるべく教室という「道場(the intellectual arena)」でお互いに切磋琢磨し、知的刺激と興奮を分かち合い、共に豊かな知性と教養を身に付けるべく最大限の努力と実力を遺憾なく発揮することこそが、本セミナーの核心部を形成する哲学であり、且つ本セミナーが究極的に志向する学習目標である。そして、それらの資質の鑑および体現者として、ルネッサンス時代における代表的劇作家であるウィリアム・シェイクスピアの登場を敢えて要請したということを強調しておきたい。
「道場」での主眼は、シェイクスピアの作品解釈と作品鑑賞を通して異文化理解(intercultural understanding)を深めると同時に、異文化コミュ二ケーション(intercultural communication)を可能なものとすることにある。より具体的には、シェイクスピアの作品を註(Notes)を羅針盤としながら丹念に読み進めること(本作業はセミナーに先行するものとする)により、例えばHamletを取り巻く権謀術数に満ちたエルシノア城内の過酷な現実やデンマークの外交および政治、占星術(astrology)、宗教論争をも孕んだルネッサンスの時代思潮などの幅広い領域に思いを馳せることによって、歴史・社会・思想・神学・哲学・言語などの領域を内包した文化的包括的文脈の中で登場人物の台詞を解釈および理解するように努めることが求められよう。シェイクスピアの自由奔放で躍動的な劇的想像力から生み出された登場人物の台詞(具体的には、"high poetry")の内実に迫り、それぞれの登場人物が織りなすところの複雑且つ微妙な人間模様を体験することによって、シェイクスピア的言語空間や演劇空間、宇宙空間を自由に飛翔することが求められよう。
昨今の慌ただしい世相のなかにあってじっくりと古典と向き合う、所謂「温故知新」の姿勢がどれほど大切なものであるのかは、敢えてここで声高に強調する必要はないだろう。逆説めいてはいるものの、古典へ没頭することによってかえって、現代に生きる我々自身の複雑な思想や感情、心理などといった目に見えないところの内面の実体と、真摯に向き合うことが可能となるからである。他ならぬ赤裸々な自分自身との対峙によって、自らを表現するためのより適切で豊かな語彙や発想、イメージなどを増幅・拡散させることが可能となるからである。すなわち、自己発見の過程こそが、みづからの感受性や言語感覚を磨く源泉に他ならないといえよう。
本英語セミナーの受講生は、異文化コミュニケーションに多大の関心と興味を抱くばかりでなく、英語が「飯よりも好き」という積極的な塾生であることを切に念願する。特に近い将来、英米加豪などの大学や大学院、研究所などに留学を計画・希望する「国際派(internationally-minded)」の塾生には、本セミナーの受講を強く勧めたい。