中野 泰志


個人基本情報
氏名:
中野 泰志[なかの やすし]
職位:
教授
研究室:
日吉心理学教室・nakanoy@z7.keio.jp
略歴:
1961年:山口県生まれ
1984年:東京国際大学 教養学部 人間関係学科 卒業
1988年:慶應義塾大学大学院 社会学研究科修士課程 修了
1988年:国立特殊教育総合研究所 視覚障害教育研究部 研究員
1996年:国立特殊教育総合研究所 視覚障害教育研究部 主任研究官
1997年4月:慶應義塾大学経済学部 助教授
2003年4月:慶應義塾大学経済学部 教授、客員教授
2003年4月:東京大学先端科学技術研究センターバリアフリープロジェクト 特任教授に転籍
2006年4月〜8月:東京大学先端科学技術研究センター 客員教授
2006年4月:慶應義塾大学経済学部 教授に復籍
最終取得学位:
文学修士・心理学・慶應義塾大学大学院社会学研究科
受賞学術賞:
所属学会:
ロービジョン学会(評議員・元理事)
視覚障害リハビリテーション協会(元会長・元福会長・元紀要編集委員)
日本特殊教育学会(元特殊教育学研究編集委員)
日本心理学会、日本視覚学会、日本基礎心理学会、日本教育心理学会、日本応用心理学会、日本福祉心理学会、日本弱視教育研究会、障害学会、ヒューマンインタフェイス学会、日本福祉のまちづくり学会(元特別研究委員会委員長、元情報障害特別研究委員会委員長)、International Society for Low Vision Research and Rehabilitation
教育活動
担当科目(2006年度)
[通学課程]
心理学I、心理学II、心理学III、心理学IV、自由研究セミナー、バリアフリー/ユニバーサル・デザイン入門I、バリアフリー/ユニバーサル・デザイン入門II
[通信教育課程]
心理学
教育方針:

心理学は人間や動物の純粋な経験(現象)を整理し、その働き(機能)や意味を明らかにし、さらにその背景にあるメカニズムを探求する学問です。その究極の目的は、人間や動物の「こころ」(行動)の理解と予測であり、個々の豊かな生活(Quality ofLife; QOL)を保障し、過ごしやすい社会を形成するための知見を科学的に究明していくことです。

心理学の講義では、科学としての心理学がどのような方法で行動や個性を測定するかに関する実習を実施し、データ分析を通して、心理学的測定法について解説します。また、それぞれの個性的な行動がどのようにして発達するのか、また、何らかの原因で発達が阻害された場合に、どのような困難(障害)が生じるのかを概観します。さらに、行動や個性を変えるためには、どのような取り組みが可能かについて、適宜、事例も紹介しながら、理論的に解説します。本講義の最大の特徴は、実験心理学の研究成果を、主として障害児・者の教育・福祉や彼らの生活をより豊かにする支援技術と関連させながら紹介する点です。高齢化社会を目前にしている今、障害や福祉は身近な問題になりつつあり、最先端科学技術等を用いてその問題点を解決する支援技術が注目を集めつつあります。「障害」や「加齢」を理解し、支援技術等を用いて、障害がある人達の教育や福祉を実現するためには、心理学の科学的な考え方や実験・観察に基づく基礎データが極めて重要な役割を果たしています。例えば、目が不自由であっても単独で行動することは可能なわけですが、白杖(白い杖)や盲導犬が自動的に導いてくれるわけではありません。白杖や盲導犬という道具を使って目の不自由な人自身が「自分はどこに行きたいのか」「そのためにはどういうルートをとるのか」「そのルートに沿って移動するためにはどういう手がかりがあるのか」「ルート中に段差や穴や障害物はないか」「迷ってしまったときにどうするか」等を判断しながら移動するわけです。このような判断がより安全に、効果的にできるためには、人が環境や地理を知覚・認知する方法を科学的に明らかにしなければなりません。

研究活動
専攻・研究領域:
実験心理学、障害児(者)心理学、ヒューマンインタフェース
現在の研究活動
研究課題名:
感覚障害を併せもつ重複障害児・者の支援技術に関する研究−感覚機能に応じたAAC技法、支援技術の再構築−(文科省科学研究費補助金基盤研究B)
途中経過及び今後の計画:
 近年、障害の重度・重複化や多様化が進んでいるといわれる。特殊教育諸学校等においても、複数の障害を併せもっている重度重複障害の人の割合が増えてきている。寝たきりの状態で自力では活動出来ない場合もあり、生命を維持したり、安全を確保することがケアの主眼になっている場合も多い。特に感覚障害を併せもつ場合、決定や選択のために、何かを見せようとしたり、聞かせようとしても反応がはっきりしないため、見えているのか、聞こえているのかわからないという状況になることが少なくない。このような感覚障害を併せもつ重複障害の場合、本人の意思を把握するために、従来のAAC(Augmentative and Alternative Communication)技法や支援技術(Assistive Technology)を適用しようとしても、うまくいかない場合がある。
例えば、スイッチを押すと好きなオモチャが動くという場面を設定したいと考えたとする。その際、感覚障害がなければ、視覚や聴覚でオモチャの動きや音を楽しむことが可能である。しかし、感覚障害があると、スイッチを押した後に何が起こったかがわからない/わかりにくい。すなわち、自分の選択がどのように環境を変化させたかがわからないのである。そこで、本研究では、感覚障害を併せもっている人がAAC技法や支援技術を活用できるようにする際の方法論について検討している。

研究課題名:
盲ろう者の自立と社会参加を推進するための機器開発・改良支援システムの構築ならびに中間支援者養成プログラム作成に関する研究(厚生労働科学研究費補助金感覚器障害研究事業)
途中経過及び今後の計画:
 現在、わが国で1万3千人の存在が推計され、視覚と聴覚の両方に障害を有する盲ろう者の自立と社会参加の推進には、他者とのコミュニケーションや移動の支援にあたる「通訳・介助員」の支援が有効である。しかし、1)すべての盲ろう者のあらゆるニーズに対応する通訳・介助員派遣事業を実施することは、財政上困難であり、2)プライバシーに関わる情報などについて、通訳・介助員による支援を盲ろう者が望まない場合もある、などの限界がある。そのため、盲ろう者が支援者を介さずに、自力で情報を入手し、他者とコミュニケーションをとれるようにするための条件整備が切望されている。例えば、コンピュータなどの電子情報機器を含む各種の支援技術をベースとして盲ろう者が活用できる情報端末を開発・改良し、情報の入手や他者とのコミュニケーション及びセルフケア(体調管理・入浴等)を独力で行えるようにする装置の開発が望まれている。
 しかし、現時点では、1)盲ろう者向けの支援機器はまだ実験・研究段階で、市販化されているものは皆無であり、2)視覚障害や聴覚障害向け支援機器をカスタマイズして活用する盲ろう者もいるが、使いやすさの点で課題も多く、3)盲ろう者に適切な技術を提供したり、活用法を紹介する「中間支援者」も皆無に等しいという深刻な問題がある。
 そこで、本研究では、盲ろう者の真のニーズと市販を考慮した開発戦略に基づいて、1)コミュニケーション支援機能、2)情報処理支援機能、3)セルフケア支援機器制御機能を有する支援機器の開発研究を計画した。また、この開発研究を通して、1) 盲ろう者と技術者・開発者をつなげる循環型開発・改良支援システムの構築、2)ニーズ把握や製品等評価を行うための盲ろうの被験者集団(モニタパネル)の形成、3)ニーズを掌握して技術者・開発者に伝えたり、盲ろう者に情報提供をする媒体的人材(メディエイタ)の養成、4)盲ろう者に支援技術の活用方法を普及させるための中間支援者養成プログラムの作成を目指し、今後の開発研究の基盤整備にも資する予定である。本研究の成果となる機器開発と、開発支援システムの構築は、盲ろう者の自立と社会参加の推進に資することが期待される。

研究課題名:
人間本位の情報応用バリアフリー空間の構築に関する研究
途中経過及び今後の計画:
 本研究は、東京大学先端科学技術研究センターの科学技術振興調整費戦略的研究拠点育成事業のオープランラボプロジェクトとして実施してきたプロジェクト研究である。近年、バリアフリーやユニバーサルデザインが注目されているが、ユーザである障害者・高齢者の生活の視点は十分でなく、ニーズとシーズの乖離が見られる場合もある。また、障害のある人や高齢者にとって最も重要なのは、自分自身の状態をポジティブに捉え、道具やサービス等を活用して生活上の機能を充足させることである。本研究では、1)障害を文化としてポジティブに捉え、2)環境との相互作用で作り出されてしまっているバリアを除去するという障害学の理念に基づき、心理学、教育学、社会学、法律学等の方法論を用いつつ、技術・工学系等多分野との文理融合を含めた総合的なアプローチを行っている。また、「障害」に対するネガティブな意識を変革し、多様性のある社会の一員として障害者が認められるようにするために、まちづくり等への参画を通した実践的な研究活動も実施している。そして、安定したバリアフリー空間を維持するために、産官学連携による生活支援技術のビジネスモデルの育成にも着手している。
主要業績:
<単著論文>
  • 中野泰志, 2000, ロービジョン補助具−コンピュータシステム−. Practical Ophthalmology. Vol.61. pp.54-59.
  • 中野泰志, 2004, 視覚障害のある人のバリアフリーとQOL−障害の理解とバリアを軽減させる環境づくり−, 東京都眼科医会報, Vol.189, pp.3-8.
  • Yasushi Nakano, 2005, Functional visual field for detecting letters and its effects on reading direction in Japanese. International Congress Series. Vol.1282C. Elsevier. pp.669-673.
<共著論文>
  • Tomoko Nawata, Yasushi Nakano, and Naoe Masuda, 2003, The effect of head movement on depth and occluding edge perception. The Japanese Journal of Psychonomic Science. Vol.22. No.1. pp.37-38.
  • Norio Ideguchi, Yasushi Nakano, and Kiyohiko Nunokawa, 2005, Development of an objective automatic perimetry using succadic eye movement. International Congress Series. Vol.1282C. Elsevier. pp.585-589.
  • Kiyohiko Nunokawa, Norio Ideguchi, and Yasushi Nakano, 2005, The influence of fixation on visual field measurement. International Congress Series. Vol.1282C. Elsevier. pp.674-678.
  • Nakano, Y., Arai, T., Nagai, N., Nunokawa, K., Kusano, T., Maebashi, N. (2006). Developing an Evaluation System for Legibility as a Universal Design Tool : Advantages of a low vision simulator utilizing a wide view ground glass filter, The 2nd International Conference for Universal Design,in Kyoto 2006, P-022.
  • Matsuda, Y., Nakano, Y., Nunokawa, K., Arai, T., (2006). Case study of University campus design process including participation of users with various physical conditions ――Consensus building and Evaluation on Tactile Tiles――, The 2nd International Conference for Universal Design,in Kyoto 2006, O-090.
<著書>
  • 大川原潔ら(編), 1998, 教育的な視機能評価と配慮. 視力の弱い子どもの理解と支援, 教育出版.(分担執筆)
  • 日本視覚学会(編), 2000, 「視覚情報処理ハンドブック」., 朝倉書店.(分担執筆)
  • 支援技術利用促進検討委員会(編), 2001, 「Introduction to Assistive Technology −電子情報支援技術を学ぶ−, 財団法人ニューメディア開発協会.(分担執筆)
  • 大曽根寛・小澤温(編), 2005, 障害者福祉論. 財団法人放送大学教育振興会.(分担執筆)
  • 高橋広(編), 2006, ロービジョンケアの実際-視覚障害者のQOL向上のために 第2版- 医学書院.(分担執筆)
  • 中野泰志ら(監修), 2006, ユニバーサルデザイン―みんなのくらしを便利に―(全3巻) あかね書房.
閲覧者へのメッセージ:

 どんな人も老化して、心身の機能が低下するわけですから、バリアフリーの問題は、人間全般にかかわる大きな問題であると言えます。私の研究活動の目的は、21世紀社会において、障害者・高齢者を含むすべての国民・ユーザが安心して、安全で快適な生活を送ることができるように、先端的科学技術を有効に応用していく方法を探り、未来の総合的バリアフリー社会空間の構築を目指すことにあります。私は「障害のある人や高齢者にとって最も重要なのは、生活上の機能を充足させることである」という観点から研究・実践を進めています。近年、バリアフリーやユニバーサルデザインが注目されていますが、ユーザである障害者・高齢者の生活の視点は十分でなく、ニーズとシーズの乖離が見られる場合もあります。これらの乖離を解消するためには、(1)多様な障害当事者のニーズを把握し、(2)抽出したニーズを研究者・開発者に伝え、(3)開発されたシーズに適合するニーズを持つユーザ(障害当事者)に情報提供・調整する必要があり、それぞれの役割を担う人材養成が急務です。加えて、(4)開発されたシーズが安定供給されるためには、「特殊な境遇の人のための特殊な技術」ではなく、「高齢化社会においては遅かれ早かれ誰にでも必要となる技術」という観点で産業化を図る必要があります。